1-5 食後の会話

 やや遅い時間の、久々の朝食はとても美味しかった。素直に感想を言うと「お腹が減ってたからよ」、と神崎さんにやんわり正された。確かに腹が減っていたのは事実だが、それを抜きにしても美味かった。
 食後のお茶を飲んで一息。
 さてどうしようか。血まみれで倒れていたのを助けてもらった上に、看病までしてもらって何も話せないのはさすがにマズイ。しかし、「実は私は他の星からやってきたのです」と言って素直に信じてもらえるだろうか?
 ここ数百年、星間の交流はない。自分がその状況なら確実にバカにされていると思うか、もしくは相手の頭を疑うかだ。ならば嘘をつくのも手だが「血まみれで倒れるような状況」に筋を通して話せるだろうか?
 それは中々難しいだろうなと見当をつける。この世界の状況がほとんど把握できていないからだ。向こうの世界なら盗賊に襲われました、の一言で済むのだがはたしてこの世界に盗賊はいるのだろうか? じゃあやっぱり疑われるのを覚悟で本当のことを話すか?
 堂々めぐり的な思考をしていると、真剣な顔をした神崎さんのほうから質問がきた。
「シュウ君、君は他の星から来た人?」
「へ?」
 間抜けな声。そして二の句がつげなかった。さっきも言ったが星間の交流はここ数百年なかったはずだ。それゆえに本当のことを話そうか迷っていたのだが相手から切り出してくるとは思わなかった。
「その顔は図星みたいね」
 楽しそうに神崎さんは笑う。
「・・・・・・どうしてそう思うんです?ここ数百年、星々の交流はないはずですけど?」
「んー、そうねぇ。まず、あんなに傷を負って子どもが倒れていることはこの世界では珍しいから。そして、君が武器を所持していたから。さらに、その歳で君が軍隊特有の 力場検索(フィールド・サーチ) を行ったから。加えてあの日、空間に大きな歪みがあったから。そして最期に・・・・・・」
 指を折りながら数えていた視線が不意に上げられ、まっすぐに自分の視線と交差する。
「昔、君にとても似た境遇の男の子がいたから、かな」
 神崎さんは懐かしむような、悪戯っぽいような目で
「傷を負ってて看病して目が覚めたら『自分は違う星から来たんだ』って、最初は信じてなかったんだけど、何となく信じるようになって、その子が『元の星に帰る』って言った時に信じることにしたの。ああ、この子は私たちとは違う星に生きているんだなって」
 神崎さんの瞳には自分が映っていたが何か違和感があった。
(ああ)
 神崎さんの瞳に映っているのは自分ではなく思い出だということに気付く。


 自分と同じように星を渡ったヒトがいるとは驚きだった。その人は自分と同じように何かから逃げ出したくて星を渡ったのだろうか? それとも好奇心の果てだったのだろうか? わざわざ危険を冒してまで星を渡ったのに帰ろうとしたのは何故だろうか? 機会があればそのヒトのことを聞いてみたいと思う。


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