1-6 バイトの条件

 もう一口、お茶をすすってから、独自の苦味を楽しみつつ、こっちのお茶は緑なんだなーと思っていると質問が飛んできた。
「さてと、これから行く当てはあるの?」
 一瞬なにを問われたのか分らなかったがすぐに思いいたる。
「あー、えーっとですねー、ないです。・・・・・・というかいきなりですね」
「んー、まぁ、シュウちゃんの人となりは何となくわかったし、ここからが本題だしね。行く当てがないなら条件付きで家に住まないかしら?」
 表情を怪訝なものにして尋ね返す。
「条件ですか?」
「そ、条件。多分シュウちゃん戦闘訓練は受けているでしょう? それもかなり高度の」
「ええ、まぁ、それなりには」
 会話をしながら目の前に座る女性が只者ではないと認識する。
「そこで家業を手伝って欲しいのよ、ちょうど人数不足で悩んでいた所なの」
「それってどんな家業です?」
 質問に答えながら注意深く言葉を吟味する。神崎さんはいい人そうではある。が、それが必ずしもいい人だとは限らない。所詮は出会って数時間もたっていないのだから。
 こちらの声音が硬くなったのを察して、美咲さんは苦笑する。
「そんなに警戒しないで。別に人殺しとか強盗とかじゃないから。家業って言うのはね妖物退治なの」
「ヨウブツ?」
 聞き慣れない単語がでてきたのでオウム返しにしてしまった。
「あー、分んないよねぇ。えーとね、んー」
 少し考える素振りをしながらどう説明しようか悩んでいるようだ。
「そっちの世界では死んだ人の魂が異形のものとして現世を徘徊するってことない?」
 少し考えてその事例と同じ、もしくは似た現象を考えるが思いつかない。
「死んだ人や動物の肉を動かすことはありますけど、『魂が異形のもの』として動くってのは聞いたことないですね、幽霊とかではないんですか?」
 それは違うわ、と美咲さんは否定してから、羨ましいわね、と複雑な表情で呟いた。
「まぁこっちの世界にはそういう現象が起こるのよ。それを退治するのが家業よ」
「モンスター退治みたいなものですか?」
「まぁ正確には退治じゃないんだけど、そう考えてもらっていいわ。どう? 悪い話じゃあないと思うんだけど?」
 確かに悪い話では無さそうだ。幸い腕に多少の自信はある。しかしまだ重要なことを聞いていない。
「で、最初の条件ってなんです?」
 美咲さんは話に食いついてきたことが嬉しいようでウキウキと話し始める。
「まず家に住むって言った通り、住み込みで手伝ってもらうわ。もちろん衣食住の保証はするわ。つまり、まかない付きでとってもお得よ。それで、お給料はどれだけ仕事をこなしたかによるわ。出来高制ってところかしらね。あ、危険手当を始めとした各種保険付きよ。あと辞めるときは一ヶ月前には申し出ること」
 少し呆れた声音で
「なんかアルバイトの面接みたいですね」
 くすくすと笑ってから
「まぁそんな感じかな? でも即戦力が欲しい程には人手不足なのよ」
 と手を頬にあてながら困り顔になっている。
「それとここが一番重要なんだけど、これから試験を受けてもらって合格しないと採用できないの」
 と急に真面目な声になった。
「あー、まだ手伝うって言ってないんですけど?」
 いつの間にやら手伝うことが前提になりかけている。そもそも『人手不足』ということと、『おいしい話』という二点からかなり危険な仕事な気がする。
(というか絶対危険だろ)
 極力危険なことは控えて平穏無事な生活を送りたいところだ。
 しかしこちらの事情は気にも留めないで
「もう、男は即断即決!!そして諦めが肝心なの!!ついでに先立つもの、つまりお金がないと生きていけないんだからここはやるしかないわ!!」
 おいおい、諦めかよと、内心ツッコむ。
 かなり強引な理論だが正論でもある。
 少し考えた末ため息一つ、恩もあることだしここはやってみようか、という結論に達する。
「わかりました。お手伝いさせていただきます。で試験というのは?」
うん、うんと二度頷いて、
「ありがとう、流石シュウちゃん。義理に厚いってのはイイ男の必須条件よ。試験は実技でルールについては移動しながら教えるから付いてきて」
 と席を立った神崎さんの後について行きながら変なことになったなと思った。


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