月が浮かぶ荒野で金髪碧眼の青年と黒髪で漆黒の瞳の青年が向かい合う。そしてそれを見守るように多くの兵士達が二人を囲む。
困惑と怒気を含む声で金髪碧眼の青年が叫ぶ。
「なんでだ!? シュウ!! 戦争が終わって、やっと治安も安定してきて、これから復興が始まるってときになんで?」
嘲笑ともいえる、力ない笑みで黒髪の青年が答える。
「なんで、か・・・・・・なんでだろうね?」
自分でもわからないなぁと、小さく呟き薄く笑う。そして目を伏せるように地面に目を向ける。そこには魔方陣が描かれていた。
再び金髪の青年が叫ぶ。
「国は今もボロボロで、大戦中以上に俺たちの存在が必要になる!! 今度は傷つけるためじゃなく、人々の希望になるように!! もう少し国が落ち着いてからだっていいだろ!?」
金髪の青年は必死に黒髪の青年を説得しようと試みるが、黒髪の青年は地面に目をむけたまま動こうとしない。何か返答を期待していた金髪の青年はその態度に苛立ちを隠そうともせず、もう一度口を開こうとした瞬間、
「強いて言えばアレだなぁ」
軽く流すような口調。
黒髪の青年が金髪の青年に視線を向け口を開く。二人を囲んでいる兵士たちも耳を澄ます。
「この国を牛耳ってる奴らがムカついたから」
ただ思ったことを口にしただけ。軽蔑も怒気も、感情の篭っていない声。しかし周りからは息を呑む声が聞こえ、今度は金髪の青年が視線を落とす。
何か反論しようとするが叶わず、わずかな間、沈黙が訪れる。しかし再び視線を上げ、
「・・・・・・確かに、今、国のトップに腐った奴が多い。けど、国王や王子や大佐、それに沢山の人達が今の体制を変えていこうと努力してる!! シュウ、お前だって知ってるだろ!?」
すがる様な、挑むような、咎める様な、そんな視線を黒髪の青年に向ける。それに対し黒髪の青年は
「だから?」
先ほどと変わらず感情の篭らぬ声で返答する。
「知ってるよ? 沢山の人達が努力してるのは。でも、それがどうした?」
金髪の青年が愕然とした表情で
「だからって、お前―――」
言葉を失くしそうになるが、
「だから、・・・・・・だからお前も協力しろよ!!」
「嫌だね」
間髪をいれずに断言する。
「なんでっ!?」
それこそ解らないという表情。
「なんで、なんでって、しつこいなぁ」
面倒くさそうに呟くと、一変して今まで感情を映していなかった漆黒の瞳に怒りの感情が宿る。白くなるほど拳を強く握り、歯を食いしばる。そして低く、けれど良く通る声で理由を告げる。
「いいか? よく聴け。英雄のあんたは知らないかもしれないけどな、ケンが封印されたんだよ」
英雄と呼ばれた金髪の青年は驚愕に目を見開く。黒髪の青年の独白は続く。
「確かにケンは俺たちと同じく業を―――魔王の業を背負っていたさ!! けどな、あの大戦の中で一緒に戦って生き残った仲間だろ!? それを椅子にふんぞり返ってるだけの豚野郎共は魔王の業を背負っているって理由だけでケンを封印しやがったんだよ!! 大戦中、利用するだけ利用して、終わったら邪魔者扱い。しかもその決定に国王も大佐も勇者も反対しなかったんだ!!」
黒髪の青年の言葉が信じられないとでも言うように、金髪の青年は声を荒げる。
「そんな、だって、・・・・・・シュウ、お前は反対しなかったのかよ?」
「反対しなかったとでも思うのか?」
底冷えするような声に周りの兵士達が一歩引く。それでも英雄たる青年はあくまで信じられないと言うように、
「きっと、・・・・・・きっと大佐達にもなにか理由があったんだよ!!」
「理由? 理由があればなにやっても良いのか? だったら俺にも理由がある。だから別に国を捨てたっていいだろ?」
馬鹿にしたように黒髪の青年は笑う。それに対し
「そんな屁理屈!! お前は救世主としての業もあるし、
「ユダは本日を持って解散したし、業を背負ってるからってこの国に留まらなければならない理由も無い」
事実突き立てられ英雄は言葉を失う。それに追い討ちを掛けるように救世主は言葉を紡ぐ。
「グラン、良いことを教えてやるよ。お前が俺を引きとめようとするのは俺が必要だからじゃない。俺の救世主としてのネーム・バリューが欲しいだけさ」
親友であり戦友である救世主の一言に悲しみの色を宿した青い瞳が宙を彷徨う。
そして救世主は不敵に笑う。
「それにさ、俺って超、自己中だしね」
◇ ◆ ◇ ◆
(・・・・・・夢かぁ)
四度目の光景になる天井が目に映る。最近、妙に過去の夢を見る。眠りが浅いせいだろうか? あまり良い記憶でない夢ばかりだ。
嘆息。
いつも自問する。
自分の選択は正しかったのだろうか、と。
いつも自答する。
わからない、と。
再び嘆息。
(・・・・・・わかったら誰も苦労しないし、迷わない。人はヒトだから未来を見通す力も無い)
しょうがないことだと思う反面、
「・・・・・・未来がわかれば世界はもう少し優しくなるかなぁ」
ただ呟く。
「どうだろうね?」
いきなり足のほうから声を掛けられた。体を起こすと一夜さんが笑っていた。そしてやぁ、と片手を挙げて
「シュウ君は随分と哲学的なことを考えているんだね。気分はどうだい?」
そう訊ねられた。