Once upon a time .

 強い風の吹く平原。
 夕日を背に和装の男が一人、俯いた格好で刀を握っている。夕日を反射する刀身は赤く、体も返り血にべっとりと濡れていた。
 その男を見ていた視線の主が詰問する。
「十哉!! 何故だ!? 何故殺した!?」
 血に濡れた男は俯いたままの格好で弱々しく答える。
「―――彼を止めるには他にもう方法が無かったんだ」
「それでも!! それは人の業を―――領分を越えている!!」
「解っているよ。きっと僕は、いや、僕の血が混じった者は永遠に呪われた運命を辿るだろうね」
 奥歯を噛み締めながら視線の主が俯き、罵る。
「っ馬鹿野郎」
「ははは、君に言われると重みが違うなぁ」
 力無い笑みを見せたのを最後に、会話の相手は始めて顔を上げる。
「だから、僕は今から江上十哉の名を捨てようと思う」
「わざわざ咎人の証を背負うつもりか?」
「きっとそれが一番良い方法さ。他に誰も傷付かない最良の」
「だが、それは」
 言いかけた言葉を遮るようにエガミと言う男は首をゆっくりと横に振った。
「それに憎む相手がいることは時に救いに繋がる」
 忌々しそうに視線の主は尋ねる。
「後世に恨が残るぞ? 自分と同じ過ちを繰り返させるのも覚悟の上か?」
 男は静かに頷く。その瞳には強い意志の光が宿っていた。
 その瞳を見て視線の主は顔を歪め、勝手にしろと小さく吐き捨てる。
「だったら、これからは壊神統夜と名乗るが良い。精々、咎人として世界から疎まれ、蔑まれながら生きていけ」
「うん。そうするよ。ありがとう、上条」
「馬鹿者。何故、貴様が礼を言う。罵られるのは我らだと言うのに・・・・・・」
「でも僕のことを心配してくれただろ?」
 視線の主はふんと鼻を鳴らす。
「私は貴様の感傷に付き合ったりはせん。だが責任はある。だからこれから私は鍛冶師になろうと思う」
 その言葉に男は頭の上に疑問詞を浮かべる。だが主は気にした風も無く、
「約束しよう。例えどれだけ時間が掛かろうとも、いつか必ず貴様の背負った咎を―――業さえも断ち切る剣を創ってみせると」
「そうか。ならば僕も約束しよう。どれだけ時が移ろうとも、必ず君の約束を見届け、皆が笑い合える日を実現させることを」



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