3-0 プロローグ

 晴れやかな空の下、柔らかな光の差し込む森の中で。
 その光景に似合わぬ、みすぼらしい薄汚れた白衣を着た老人が一人。
 その老人は体を痩せ細らせ、頬をこかし、頭の一部は禿上がらせていた。
 だがそんな身でありながら、瞳は未だ衰えを感じさせない。
 いや、寧ろその瞳には狂気を宿していた。

「ついに、ついに見つけたぞ!!」

 震える手で、所々土の付着した八面体を天に掲げ、ハの音で高笑いを上げ始める。
 うっとりと、人の頭ほどの大きさのソレを見つめる。

「コレさえあれば・・・・・・」

 己の妄想に浸りながら、口角を大きく吊り上げる。
 八面体に光が反射して色彩がはっきりする。

 その物体の外殻部分は冷たく輝いていたが、その内部には小さな炎が揺らめいてる。まるで外殻に触れるのを恐れるかの様に。
 密閉空間で炎が燃え続けることなどありはしない。よってその炎はこの世の理から外れた物だと分かる。

 卑卑卑と病的で聞く者を不安にさせるような笑みと、密やかな楽しみに酔うような不吉な笑み。
 その両を持って、貌を一変させる。

「待っておれよ―――救世主!!」

 貌には隠す事のない憎悪と怒りを浮かび上がらせ、それが瞳に宿した狂気を一層際立たせる。
 そしてその瞳が。この場所に居るはずのない相手を探し、ギョロギョロと宙を彷徨う。

 だが誰も知らない。―――その瞳が確かにヒトとしての知性を残していた事に。
 そして、それは同時に残虐な知性の光であったことを。
 もちろん科学者(ほんにん)すらも。



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