時間は夕方。場所は無駄に長い石段の下。
「おい、ヒロスケ」
「ん?」
不機嫌な声を隠す気もなくヒロスケに問いかける。
「それはなんだ?」
「・・・・・・あぁ」
やや疲れた声でヒロスケは答える。
「付いて来ちゃった―――」
そう言って左隣、やや下に視線を向ける。
「隠れて特訓とは卑怯だぞ!! というわけで俺も仲間に入れてくれ!!」
場の雰囲気を読まない、無駄に元気な少年、高峰が手を上げる。
ヒロスケと同時に盛大な溜息を吐く。
「元の場所に返してきなさい」
「いや、俺もそうしたんだけど、いくら言っても付いて来るんだよ」
「はっはっはっ、人間諦めが肝心と昔の偉い人は言ったそうだよ」
微妙に噛み合わない会話。特に最後の一人が。
「なんか特訓前からすげー疲れる・・・・・・ヒロスケ、今日はやめようか?」
「いや、お前の気持ちもわかるが、今日諦めても結局また同じことの繰り返しになると思うぞ?」
「はっはっはっ、流石は
無駄に高笑いが好きなのか口を開くたびに微妙にご満悦だ。
「じゃあ、もう一生やめるという方向でどうだ?」
「いやそれは勘弁。俺はまだ死にたくない。特に断に葬られるなんて真っ平ごめんだ」
「うんうん、断は容赦を知らんからなぁ」
他人事のように高峰は頷く。
難しい問題だ。ヒロスケが断に狙われる理由の大半は自分だと言うのは―――言葉にしたりはしないが―――理解している。だから勝つとは言わないまでも、大怪我しなうちに鍛えておこうと思い、こうして週二回、特訓をつけているのだ。そして、あわよくば断の気がヒロスケに心移りしないかなぁと、かなり自分本位なことを考えていたりする。
「シュウ。気が進まないのはわかるが俺の命のために我慢してくれ。それにユウもこんなんだが悪い奴じゃないのは保障するから」
「なんだ? こんなのって!? ヒロはちょっと背が高くなったからって意地悪になったな!!」
「ああ。ユウは背が伸びないからって何時までも子供のまま他人に迷惑かけちゃ駄目だぞ?」
背が伸びない、の一言に高峰はショックを受けて、地面にしゃがみ込んでいじけ始める。
(ああ、周りの視線が痛い)
人通りは下校中の学生が大半だが、何事かと通り過ぎる時にチラチラと視線を送ってくる。高峰の体が平均よりかなり小さいので、下級生を苛めているようにも他人の目からは映るだろう。
「―――ったく。わかったよ」
限りなく気は進まないが、ここで時間を潰すのももったいない。
「ホントか!?」
急に元気になった高峰が顔を輝かせて立ち上がる。ヒロスケはすまないぁと顔に書いてある。
「ああ、ただし条件がある」
「条件?」
きょとんとした表情で高峰は聞き返す。
「ああ。途中で投げ出すのはなしだ。あと楽しくないことだけは請け合いだし、体を酷使することになるからから覚悟しとけ?」
横ではヒロスケがうんうんと頷いている。
「ふふ、望むところだ!! 何を隠そう俺は勉強が嫌いだからな!!」
高峰は胸をはる。
「ああ、そう」
「ええぇぇぇ、今のツッコミ所なのにツッコんでくれないの!?」
愕然とする高峰。
一体、高峰は俺たちに何を望んでいるんだろう? そう思いヒロスケの方を向く。
ヒロスケは一度咳払いをすると
「つまり、ユウは勉強は嫌いだが、体を動かすのは好きだと言いたいんだ」
「ああ、なるほど。流石、幼馴染だけのことはあるなぁ」
「いや、その言い方、微妙に傷付くから」
ヒロスケは嫌そうに顔をしかめる。高峰はきょとんとしている。
「え? なんで傷付くの?」
「背が低い子はわからなくていい事だ」
冷たくヒロスケは突き放す。再びショックを受ける高峰。
(一々ショックを受けるな)
周りの視線が痛いからと言いたいのを堪る。日が長くなってきているとは言え、これ以上、漫才をしていたら暗くなってしまう。
「そんじゃ始めようか?」
「おう」
「おっしゃー」
そう言って手を一回叩く。
ヒロスケは無言で石段を駆け上がりだす。
「へ?」
高峰は状況が飲み込めず呆然としている。
「ほら、高峰もヒロスケと同じように上がれよ?」
「ええぇぇ、だって特訓だろ? 流れる滝に身を打たれたりとか、左右に動く丸太を避けたりとかじゃないの?」
高峰がいったい何を期待していたのか遅まきながらに理解した。
「言っただろ? 『楽しくないことだけは請け合いだ』って。ヒロスケとの特訓は延々とこの階段を駆け上がること。10分ぐらいしたら俺が下から追いかけるから、追いつかれない内に一番上まで登りきること。OK?」
「だって・・・・・・ここ、すーんげー長いぞ?」
そう言って高峰は石段を見上げる。
「だから特訓なんだよ。ほらほら、ぼさっとするな」
ヒロスケはもうかなり上まで登っている。
「だーまーさーれーたー」
泣き叫びながら高峰も石段を駆け上がる。その後姿をゆっくり眺める。
「さてと、どこまで登れるかなぁ」
聞こえないように小さいく呟いた。
黙々と石段を駆け上がりながら考えをまとめる。
最初、こんな特訓に意味があるのかと半信半疑だった。ただ石段を駆け上がるという、特訓とも言えないような特訓だ。それでも
実感が湧き始めたのは特訓を始めて一ヶ月くらいたった頃だろうか? 以前に比べて
『以前との違いが解る様になったなら大した進歩だ』
と笑っていた。確かに以前の力場の形成の仕方がベストだと―――恥ずかしい話だが―――自分では思っていた。しかし違いが解る様になってからは以前の下手さ加減に呆れてしまった。そしてシュウの力場の纏い方の秀麗さに気が付いた。その纏い方を真似してみるのだがどうも上手くいかない。これが実力の差なのだと思い至った。
そして実感が確証に変わったのはつい最近。今まで勝てなかったユウに道場の試合で勝ててしまったのだ。それがこの週二回の特訓の成果だと思っている。
そこまで考えて現実へと意識を引き上げ、走りながら後ろを窺う。
出だしの遅れたユウが石段を駆け上がっているが、既に足元が不安定で、そろそろばててきている様だ。
そしてその更に後からは、かなりのスピードでシュウが追いかけてきている。
未だにシュウに追いつかれないまま上まで登りきれたことはない。それでも最初に比べれば追いつかれるまでの時間も、登る高さも成長した。
そしてユウも同じ事を始めたのだ。また負けるようにはなりたくない。
(これからはもっと頑張らなくちゃな!!)
最初の目標から外れつつあると感じながらも石段を強く蹴った。
呼吸が上がる。胸が痛い。一歩一歩石段を登る足が思う様に動かない。
先に上るヒロとの差が縮まらない。いや、より一層差が開いて行く。まだ全体の四分の一も進んでいないのに。
最初はこんなの楽だと思った。力場で身体を
(想像以上に、キツイ!!)
前を上るヒロの足取りはまだしっかりしていて、ばてている様子もない。それに比べて自分は今にも座り込んでしまいそうだ。
(悔しい)
四ヶ月に一回、道場での練習試合で、いままでは楽勝とは言わないまでも、勝てていたヒロにあっさりと負けてしまった。
同じ時期に道場に入門して、同じように練習して、けれど自分の方が強かった。身長でも勉強でも敵わない自分が、唯一勝てるもの。それが武道の成績だったのだ。しかしそれさえも負けてしまった。
そして、その差を今この階段に、まざまざと見せ付けられているような気がした。この開いていく距離が自分とヒロの差なのだと。
(悔しい!!)
道場で負けを宣言された時よりも、もっと悔しい。
既に力場も練れていない、倒れそうな体で必死の思いで一歩を踏み出す。けれどその間にもヒロはどんどん階段を上っていく。
そして、もう一歩を踏み出したところでバランスを崩す。咄嗟に手を付こうとするが思うように体が動かない。痛みよりも早く、痛いと思う気持ちが沸き起こり目をつむる。
(あれ?)
しかし覚悟していた痛みはいつまでたってもやってこない。
不思議に想いゆっくりと目を開け、体の感覚を確かめる。そこで初めて、誰かに腕を掴まれているのに気付く。だから倒れなかったのだと。そして自分の腕を掴んでいる人物に目を向ける。
そこには予想通り黒河修司の顔があった。
「高峰、結構頑張ったな。初めてでここまで上がれるならたいしたもんだ」
驚きが少し混じった笑顔で喋りながら、自分の腰をゆっくり石段に下ろす。
そう言えば後から追いかけると、下で黒河が言っていたのを思い出す。10分のハンデがありながらもう追いつかれてしまったのかと、ハッキリしない頭で考える。
黒河はまだ上を登っているであろうヒロに視線を向けながら
「まぁ、力場の形成にまだまだ改善の余地はあるけど、その年なら及第点だろうね。ただ加圧するタイミングが悪い。加圧は加圧するだけ体力と精神力を消費する。今の高峰のやりかたじゃあ無駄が多すぎるんだ。ロウから一瞬でトップまで上げて、またすぐロウに落とすって感じに意識するともうちょい上まで登れるようになるぞ?」
黒河の言葉が右から左へ抜けていく。
今の感じをなんと表現したらいいのか?
反応のない自分に黒河が視線を向けてくる。その表情が驚から穏やかな笑に変わる。
「悲しくて、情けなくて、それで悔しい?」
「え?」
何故、自分でも理解できてなかった想いを的確に、黒河は突いてきたのか?
そして遅れながらに自分の状態に気付く。
「―――あ」
目から熱いものが頬を伝っていた。久しく忘れていた熱さだった。
黒河は乱暴に自分の頭を撫ぜる。
「その想いは理解できる。・・・・・・けどな、ヒロスケだって何もせずに今の力を手に入れたわけじゃない。ちゃんとした努力の結果だ」
そう言って黒河は立ち上がる。
「悔しいと思う感情は決して悪いことじゃない。―――ただそれが屈折すると間違った方向に進むことになる。さっき高峰も言ってたけど、諦める事も時には必要だ。けど、まだその高みにまで至ってはいないだろ? 諦めなければ届くと信じるなら、時に世界はそれに答えてくれる・・・・・・こともある。もちろん決めるのは高峰自身だ。もし自分の弱さに卑屈にならず、ヒロスケと同じか、それ以上の高みを目指すなら這ってでもいい。一番上まで上がって来い」
それだけ言うと振り返りもせず黒河は八段飛ばしで石段を駆け上がっていく。あの調子ならヒロは一番上にたどり着く前に追いつかれるだろう。
「・・・・・・」
気温の下がりつつある風が頬を撫ぜる。その風を感じながら呆然と空を見上げる。まだ夕闇に染まるまで時間はありそうだ。
(卑屈にならず、か)
完全にとは言えないが、黒河の言いたいことはわかる気がした。道場の先生も似たようなことを言っていたのを思い出す。
もしかしたらヒロも自分に負けていた時、表には出さないが悔しいと思っていたのだろうか?
(多分―――)
自分と同じはずだ。
走る早さも、頭の良さも、ましてや顔の形や体の大きさだって違う。もっと言えば生まれた環境だって違うのだ。
それでも悔しいと思う気持ちはきっと同じはずだ。そして競い勝ちたいと思うなら前に進むしかない。それこそ
もう一度、石段を見上げる。その高さは絶望的だ。日が落ちるまでに登りきることは不可能だろう。けれど―――
(終わりは見えてる!!)
埃を払って立ち上がる。既に足は筋肉痛だ。それでも一歩。また一歩。確実に石段を踏みしめる。
(絶対、追いついてやるからな!!)
既に日は暮れて辺りには闇が満ちている。
力場形成の概念、保持のしかた、加圧のタイミングなど実演して見せながらヒロスケに説明する。
気温はかなり下がってきている。体を動かしていないと少し寒い。
「ヒロスケ、帰らなくてもいいのか?」
「ああ、電話貸して貰って家に連絡はとってあるし、ユウの家にも連絡しといた」
問題ないとでも言うように喋る。
「別に付き合う必要はないんだぞ?」
小学生ならとっくに家に帰って晩飯を食い終わっていていい時間だろう。
「まぁ、幼馴染を放って帰るわけにもいかんだろ?」
そう言ってヒロスケは屈託なく笑う。それから最上段に腰を下ろす。
(こういう所がヒロスケがヒロスケたる所以だよなぁ)
そんなことを考えながら
かなり上まで高峰は登ってきているようだ。
ヒロスケに習い自分も腰を下ろす。
「なぁ、シュウ?」
「ん?」
少し真面目な声でヒロスケが話しかけてくる。
「迷惑掛けて済まなかったな」
「―――なんのことだ?」
一瞬言葉に迷った。高峰のことを言っているのだろうが気付かないフリをする。
ヒロスケは驚いた顔になったがすぐ楽しそうな顔になって
「いや、なんでもねぇよ」
「そうか」
冷えた風が二人の間を通り過ぎていく。
「なぁ」
「ん?」
再びヒロスケが話しかけてくる。
「ユウの奴、結構いい奴だろ?」
どこか楽しそうな表情だ。
「・・・・・・まぁ、正直見直したよ。もうちょいただの阿呆かと思ってた」
あの阿呆っぷりを知っているため認めたくはないが、認めざるを得ないだろう。
泣いていた時、心底悔しそうだったが、目は死んでいなかった。だからこんな時間まで待っているのだ。
「ユウもヒデェ言われようだな」
ヒロスケは喉の奥でくっくと笑う。
「何にも考えて無さそうで底抜けに明るい。勝負事が好きで、その癖負けず嫌い」
「・・・・・・」
「ちょっとシュウに似てるよな?」
言葉の意味を吟味し眉を顰める。
「どこが?」
「いや、負けず嫌いな所とか」
また楽しそうにヒロスケは笑う。
「シュウも一回くらい負けてやれば断も落ち着くのに、結局負けようとしないんだもんなぁ」
「あいつとは、出会いが最悪だったんだからしょうがない」
憮然と言ってみるものの少々、大人気ないかなと思わなくもない。けれど断にわざと負ける自分を想像してみて不愉快な気分になるのは如何ともしがたい。それに・・・・・・
「それに、多分わざと勝たせてもらってもアイツは喜ばねぇよ。それこそ今以上にムキになってきそうだ」
ヒロスケは少し考えた後に笑って
「そうだなぁ。確かに断はそれっぽいもんなぁ。シュウも厄介なのに目の仇にされてんだな」
「そう思うなら俺の代わりヒロスケが相手をしてやってくれ。そろそろ勝負できると思うぞ?」
その言葉にヒロスケは好戦的な笑みを見せる。
「シュウから見て俺は勝てると思うか?」
「まだ、無理だろうね」
客観的な予想を口にする。それに気落ちした様子もなくヒロスケは問いを重ねる。
「いつか俺は断に勝てるようになると思うか?」
「それは本人しだいだな。
一度言葉を切る。
「今は単に努力した時間と体格の差で優劣が現れてる。けどこの先もずっと同じだって保証はない。今は才能とか考えず努力するしかないよ」
ヒロスケはなるほどねぇと呟き石段の下へ目を凝らす。
「そっかー。まぁとりあえず俺の目標はユウに負けないよう努力するところかなぁ」
「それでいいと思うぞ? 高峰の奴も、お前に追いつくために努力を重ねるだろうし。切磋琢磨できる相手がいるほうが進歩は早い」
ヒロスケはこちらに向き直り、眉間に皺を寄せる。
「なぁ、シュウ。思ったんだが・・・・・・」
「なんだ?」
「その『高峰』って呼び方、変えねぇ? なんか他人行儀みたいで落ち着かねぇんだよ」
そう言って居心地悪そうに体を動かす。
相変わらず熱血してるなぁと思ったが口にはせず、素直に尋ね返す。
「じゃあ俺もユウって呼べばいいのか?」
「んー、出来れば俺のヒロスケみたいな愉快な呼び名って考え付かない?」
「別に愉快でなくてもいいだろ?」
「いやいや、それじゃあ俺が不公平だ!!」
微妙に力説するヒロスケ。
「んー」
別にどうでもいいのだが空を見上げて考える。空には星が輝いていた。
「・・・・・・じゃあさ、タスクでどうだ?」
「タスク?」
ヒロスケは怪訝そうに聞き返す。
「そう。『ヒロスケ』も『
なんの捻りもない愛称だ。
「祐にタスクなんて読みあるのか?」
更に怪訝そうな表情で聞き返す。
「一応あるみたいだな」
「へー。ちょっと格好良くて悔しいなぁ」
そう言って息を吐く。
「いやいや、ヒロスケもいかしてると思うぞ?」
顔を見ながらニヤニヤ笑ってやる。
「うるせぇ、『シュウちゃん』のくせに、っ痛ぇー」
ヒロスケは涙目で頭を押さえる。
「シュウちゃん呼ぶな」
強くヒロスケの顔を睨む。痛みの残るであろう頭を撫ぜながら
「くっそー、神崎姉妹には許すのに俺は不許可だなんて・・・・・・どうせ私のことなんて遊びだったのね!?」
どこで覚えた、その台詞とツッコもうかと思ったが大切なことを忘れていそうなので指摘してやる。
「遊びで十分だろ? 男同士で
ヒロスケは一度空を見上げて言葉の意味を吟味し、気落ちた様子で呟く。
「・・・・・・そうだな」
「今度からちゃんと考えてから喋れよ?」
「気ヲツケマス」
ヒロスケは溜息を吐こうとして下を向くと嬉しそうな表情で顔を上げる。
「お、きたきた」
石段をふら付きながらも、ゆっくり上がってくるタスクの姿が闇に映る。心なし薄汚れて見えるのは目の錯覚でもなく、闇のせいでもないだろう。なんども膝をついた後だ。
立ち上がり道を譲る。最後の一段を登りきるまで、二人、無言でタスクの動きを目で追う。そして最後の一段をゆっくり、時間を掛けて登りきる。登りきってすぐ倒れる体を支えてやる。
「お疲れ」
「よく頑張ったな」
「・・・・・・」
声をかけてもピクリとも反応しないタスクに怪訝そうにヒロスケが声を掛ける。
「タスク?」
「―――フフフ、ハハハ、ハァーッハッハッハッ・・・・・・」
顔をあげたタスクがいきなり不気味な高笑いを始めた。
「ついに、ついに俺はやりきったぞ!! これで、これで、俺は・・・・・・!!」
暴走気味のタスクに目を落とし、そしてヒロスケと顔を見合わせ頷きあう。
「よっと」
タスクの体を支えていた手を離すと物理法則に従って体は落下。
「げふっ」
変な声を上げて倒れこむ。地面と抱き合う格好で行動停止。
「さて、夜も遅いし今日はこれでお開きとしますか?」
とヒロスケ。
「そうだな。あんまり遅いと親も心配するだろうし」
ヒロスケに同意する。
「・・・・・・」
屈伸をして体をほぐす。
「あー、そう言えば宿題やってねぇなぁ」
待っている時間にやっておけばよかったなと少し後悔。
「ってお前、それはいつもの事だろ!?」
律儀にツッコミを入れるヒロスケ。
「・・・・・・」
西の空を見ると雲ひとつなく星が輝いていた。
「明日もいい天気になりそうだな」
「ああ、もっと暖かくなればいいな」
「・・・・・・」
下に目をやると地面にのの字を書いていじけているタスクがいた。
そんなタスクを見て、もう一度ヒロスケと顔を見合わせ小さく笑う。
「よし、そんじゃ帰るぞ? タスク」
「ああ、タスクは俺が下まで運んでやるよ」
「たすく?」
タスクは顔を上げ不思議そうな表情で尋ねる。
「そ。ユウ、お前のことを今度からタスクと呼ぶことに決定したから、無視すんなよ?」
ヒロスケは面白そうに笑う。不思議とつられて笑顔になる。
「まぁ、ついでだから俺のこともシュウでいいぞ?」
ヒロスケが自分の顔を見て少し驚いた顔をしたがすぐに笑みを見せる。
急に言われてキョトンとした表情だったタスクだが満面の笑みで元気良く頷く。
「おう!!」
そして三人、顔を見合わせ何が面白いのか大笑いした。