時間になっても校門に来ない双子の片割れを探す為、放課後の校舎を一人歩く。
他に児童の姿は見えない。
(探すのが雪だったら手っ取り早いんだけどなぁ・・・・・・)
心の中で愚痴を零しつつ、足を動かす。
桜に備わった『先見』と呼ばれる特殊能力は人探しに便利だ。
しかし現実は逆パターンで探すのは桜。居そうな場所に当たりをつけて順に潰していくしかない。
入れ違いにならないよう、雪は校門の前に待機させておいた。その表情は眉を下げた不安顔。桜の事を心配しているだろう事は聞かずとも分かる。
互いが互いを大切に想っている二人の泣き顔は、見たくないよなぁと自分本位で思う。
教室を見て回っている途中、掲示板に目が留る。
そこには『より道せずに、まっすぐお家に帰りましょう』と標語が書かれていた。
少しずつ日が沈むのが遅くなって来る季節故の標語だろうか。
(実に健全で喜ばしいねぇ)
とやや皮肉気に思う。
まぁ、子供の安全を考えるなら悪くない方針だ。―――そこは評価できる。
ただそれを理解してなお、シニカルな感情を抑えきれないのは捻くれた性格をしているからだろう。
相変わらずな自分にヤレヤレと頭を掻く。
自己分析も適当に捜索を再開。
キョロキョロと視覚で確認しつつ、
(どこに居るのかねぇ?)
時間にルーズな子供は碌な大人にならんよなぁと、下らない心配をしつつ足を止める。空き教室を一通り探してみたが人影は無かった。
(どーこ行ったんだろ?)
居そうな場所の大半は潰し終わっている。このまま全部を探すのは余りに非効率的過ぎだ。
最近は泣く事も減って、成長したなぁなどと一人感心していたのだが。
(まーた、断のイジメられたか?)
とすれば
(お礼参りだけは必須だよなー)
ウームと唸って腕を組むが、すぐに解く。
取り敢えずお礼参りの計画は保留。
まずは見つけるのが先決だなと行動指針を決定。
(疲れるからあんまりやりたくないんだけどなぁ)
泣き言を漏らしてから目を閉じ、息を深く吐く。
体の準備を整えて
それを一気に開放し力場検索の範囲を拡大。
「・・・・・・」
更に力場の密度を高め探査精度を向上させる。
(―――居た)
屋上に通じる階段の踊り場。その隅。
階段の下から見ただけでは死角になる場所だとすぐに分かる。それは自分も良く利用する場所だからだ。
(一人で何やってんだろうね?)
大方の想像は付くのだが、それでも疑問に思わずにはいられない。
とりあえず現場に向かうために廊下を走る。
気配を殺さず、わざと足音を立てて階段を上る。踊り場の隅には膝を抱えた格好で
「見ーつけた」
少女は声に反応を示さずただ顔を伏せ続ける。
「また泣いてた?」
場の空気を読まず、暢気な声で聞いてみる。
少女は答えの代わりに一層体を縮こまらせる。
「また、断にいじめられた?」
力なく首を横に振って否定の意を示す。
「じゃぁ、なんで泣いてるの?」
無言。
体を小さく、硬く。だんまりを決め込み、全身からは言いたくない雰囲気を醸し出していた。
その反応を微笑ましいなと、少しだけ口元を綻ばせる。
「・・・・・・辛い?」
問いの言葉に興味を引かれたかのように少女はゆっくりと顔を上げた。
予想通り
目が合うと安心させるように小さく微笑む。
「誰かに嫌われるのは辛いよね」
少女の黒髪をゆっくりと優しく撫でる。
蔑みだったり、畏怖だったり、嫉妬だったり。嫌われるのにも様々な理由があるが、得てして剥き出しの負の感情をぶつけられて平常を保ち続けるのは難しい。
そして一度
自分自身が嫌いになる。
他者と接する事に萎縮する。
そして最後には立ち上がる勇気が、無くなる。
後はひたすらに耐えるだけの生き方。
それは凄く―――
「悲しいよね」
少女は頷くでもなくただ真っ直ぐに見上げてくる。
「でも、自分を嫌いにはならないで」
例え、それが
そしていつか、大人になる過程でその言葉が嘘だと気付く時が来るとしても。
(その時は、遠慮無く『嘘吐き』と罵ってくれれば良いから)
ただ今だけは、サンタクロースを信じるように、真実だと思って欲しいなと都合よく思う。
「少なくとも、僕は君のことが好きだから」
その台詞に少女は慌てたように言葉を返す。
「わ、私もシュウちゃんのことす、好きだよ!!」
ああ、この少女の
「うん、ありがとう」
出来る事なら、その直向さを忘れずに成長して欲しいなと心の隅で密かに願った。