放課後にしては早い時間帯。
屋上に吹く風は柔らかく、春の匂いを運んでくる。遠く見える山々には緑の色彩が多く見える。
「あんた達ってさ、どういう関係?」
唐突に度々不思議に思っていた事を口に出す。
「いきなりどうしたの? 藪から棒に」
驚いたように答えたのは本名、柳広輔。愛称、ヒロスケ。外見に似合わないバカっぽい愛称が逆に良く似合っているとあたしは思っている。
その外見は風姿秀麗な優男。あたしの友達の中にも黄色い声を上げる子は少なくない。と言うより、むしろ多い。しかも頭のほうも良く出来ていらっしゃるようで優秀。じゃぁ頭だけなのかと言えばそうでもなく、不良を相手に鼻歌を歌いながらボッコボコにするような実力を持っているから始末が悪い。
嘘か真か街中で不良に絡まれた女の子を助けたなんて話を良く耳にするが、あたしから言わせれば相当の暇人だ。
顔だけは無駄に良い男が質問に答える。
「えーと、ほら、あれだ。―――熱い友情で結ばれた、生涯の友と誓った義兄弟」
「はい。ダウト」
言い終わる前に言葉に重ねると、ゲンナリとした表情を向けてきた。相変わらず失礼なヤローだ。
「あ゛ー、エンさん? 自分から質問しといてソレは無いと思いますよ?」
「熱いとか言ってる時点で既に嘘臭いじゃない。タスクは兎も角、シュウはもっと冷血でしょ?」
「いや、んー、まぁ、それはそうなんだけど」
同意しかねるように言葉を濁すヒロスケ。シュウに義理立てでもしているんだろうか? 少し意外だ。
本人の居ない所で悪口を言うのもアレなので追求するのは止めておこう。
やや強引に話を戻す。
「ホント、あんた達って微妙な関係よね」
今ココには居ないが黒河修司と高峰祐。片やダメ人間。片や落ち零れ。
どう考えてもつるむには不釣合いだ。―――まぁ、あたしが言えた義理でないのは重々承知しているつもりだけど。―――ヒロスケの性格に問題があればそれも納得できるが、表向きは気の良い少年で常に人の輪の中心に立っているような人物だ。
普通、グループを組むときは似た者が集まるのが常だが、この三人に関して言えばそれが当てはまらない。そしてその関係に縛られる事も無く、それぞれがそれぞれに自由気ままな関係を維持している。
「関係って言われてもなぁ」
改めて思案するようにポリポリと頭をかく。
「出身小が同じで、同門に通ってるって事位?」
回りから見れば不釣合いな関係でも、本人たちは特に気にも留めていないようだ。
でもそれは付き合っていれば何となく分かる。私が謎だと思うのは
「あんた達ってさ、ヒロスケを中心に動いてるようだけど実はシュウが中心よね?」
一番物臭で、最もリーダーに向かなさそうなシュウが、実は三人組の中で一番強い決定権を持っている。
「・・・・・・あー、そうかもしれない」
考えた事も無かったのか間があってから答えは返ってきた。
「普通、そう言うのは一番優秀なヒロスケ、あんたが持つべきじゃない?」
「いや、そうでもないだろ? シュウが俺たちの中じゃ一番強いし」
なんと言う実力社会。あんた達は一体何処の部族の出身者だ? もう少し文化的な考え方を習え。
少なくともその論でいけば、あたしのヒエラルキーは間違いなく一番下だろう。
「俺からしてみればさ、エンの方が不思議」
「なんでよ?」
「シュウがさ、
「何それ? ホモの巣でも作るつもりだったの? 趣味が悪いとしか言いようが無いわね。ドン引きだわ」
「いや、そこは暗に『あたしの事を男だと言いたいのかゴッ」
腹を押さえて蹲るヒロスケを横目に、本当にコイツ武術家なんだろうかと疑問に思う。どうも隙が多い。今も簡単に入ったし。
「で、さっきのどういう意味よ?」
「何事も無かったかのように会話を続けるエンさんがとても素敵だとボクは思います」
ハイハイと適当に相槌。
ヒロスケは少し困った顔を作り
「小学校の頃も俺達は屋上に入り浸ってたけど、シュウの奴、神崎姉妹を招く事はあっても鍵は渡さなかったんだぜ?」
その言葉に今度はあたしが渋い顔を作る番となった。
神崎姉妹。確か名前は六花と桜花。美人の双子姉妹と言う事でなにかと有名である。
同性のあたしが遠目から見ても素直に可愛いと思える容姿をしている。後四、五年もすれば素晴らしい美人になるだろう。
家が妖物の退治を生業としていて彼女たちもそれを手伝っているらしい事。そしてシュウもそれを手伝っている事。同じ屋根の下に住んでいる事を噂話程度には知っている。
あたしは二人と直接話した事は無いが、育ちが良さそうで楚々とした雰囲気に少し苦手意識がある。
と自分の頭の中の情報を整理した事で新たに疑問が浮かんだ。
「あれ? 親しい間柄のはずなのに、なんでシュウは鍵を渡さなかったの?」
「現在進行形だから正確には『渡していないの?』だけどね。―――なんでだと思う?」
疑問を疑問で返され、言葉に迷い悩む。
他者を自分から遠ざけようとする行動原理は
「嫌い、もしくは苦手だから?」
「そう言う風に見える?」
再び言葉に詰まる。それを知るほど深い仲ではないし、ヒロスケとは比べようも無いくらい友人としての歴は浅い。だからその答えは
「・・・・・・分かんないわよ、あたしには」
言うとヒロスケは小さく笑う。そういう一々の仕草が絵になるのがこの男がこの男たる所以だろう。
「多分、それがエンの疑問の答えだよ」
「なにそれ? 分けわかんないわ」
眉を寄せ不貞腐れたように言葉を作る。逆にヒロスケは楽しそうに笑った。
「要するにシュウは馬鹿だって事さ」
本当にコイツ等、謎だ。